ダブルワーク社員の社会保険はどうなる?加入条件・二以上事業所勤務届・雇用保険・労災を解説

2026.09.05

ダブルワーク(Wワーク)社員を採用するとき、「本業で社会保険に入っているなら、自社では加入不要なのか」「社会保険料は二重に払うのか」と迷う企業は少なくありません。

結論からいうと、社会保険は勤務先ごとに加入要件を判定し、自社でも要件を満たせば本業ですでに加入していても自社でも資格取得が必要です。

この記事では、ダブルワーク社員の社会保険について、加入判定、二以上事業所勤務届、保険料の計算、雇用保険・労災との違いまで実務目線で整理します。

※本記事は、
シリーズ① : ダブルワークのパートを採用すると残業代は1時間目から?
シリーズ② : ダブルワークの労働時間管理はどうする?
に続く、社会保険編です。労働時間通算・割増賃金・管理モデルの基本は①②をご参照ください。

ダブルワーク社員の社会保険|まず結論

・本業で社会保険に加入していても、自社の勤務だけで社会保険の加入要件を満たせば、自社でも被保険者資格が生じます。
・2社以上で社会保険の加入要件を満たす場合、本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。
・標準報酬月額は各事業所の報酬を合算して決まり、健康保険・厚生年金保険の保険料は各社の報酬額に応じて按分されます。
・雇用保険は原則として主たる賃金を受ける1つの事業所で加入します。
・労災保険は各事業所で適用され、複数就業者の給付額は複数事業場の賃金を合算して算定される仕組みがあります。

「本業で加入済みだから自社では不要」とは限りません

ダブルワーク社員の社会保険で最初に確認すべきなのは、「本業で加入しているか」ではなく、まず自社での勤務条件だけを見たときに健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たすかどうかです。
自社で加入要件を満たす場合、本業ですでに被保険者になっていても、自社でも資格取得手続きが必要になります。
反対に、自社単独では加入要件を満たさない場合、原則として自社で新たに社会保険へ加入させることにはなりません。

ダブルワーク社員が社会保険に加入する条件

加入判定は、通常の労働者の4分の3以上働くか、短時間労働者としての要件を満たすか、という順に確認すると整理しやすくなります。

特に注意したいのが制度改正です。短時間労働者の月額賃金8.8万円以上という要件は2026年10月に撤廃予定で、企業規模要件も2027年10月以降、段階的に縮小される予定です。現在は加入対象でないダブルワーク社員でも、今後対象になる可能性があります。

ダブルワーク社員の社会保険を判断する3ステップ

1. 自社での週所定労働時間・月所定労働日数・雇用期間・賃金・学生該当性などを確認する。
2. 自社単独で健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たすか判定する。
3. 自社でも加入対象なら資格取得手続きを行い、本人に二以上事業所勤務届の提出を案内する。

この順序で確認すると、「本業ですでに社会保険に入っているから自社では何もしなくてよい」という誤解を防ぎやすくなります。

2社で加入する場合は「二以上事業所勤務届」が必要

本業と副業先の両方で社会保険の加入要件を満たすと、本人は「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、主たる事業所を選択します。
届出後は、各事業所から受ける報酬月額を合算して標準報酬月額が決定され、その標準報酬月額を各社の報酬額に応じて按分し、各事業所が健康保険・厚生年金保険の保険料を負担します。

つまり、単純に「2社で同じ社会保険料を二重払いする」という仕組みではありません。
企業側では、自社の資格取得手続きを行うだけでなく、ダブルワークであることを把握した段階で本人に二以上事業所勤務届の必要性を案内しておくことが重要です。届出が遅れると、後から保険料の精算が必要になるケースがあります。

社会保険料はどう計算される?

例えばA社とB社の両方で社会保険の加入要件を満たす場合、両社の報酬を合算して標準報酬月額を決定します。そのうえで、決定された保険料額を各社の報酬割合に応じて按分します。
企業が「自社分だけを見て通常どおり計算すればよい」とは限らない点に注意が必要です。

ダブルワーク社員の雇用保険は原則1社のみ

雇用保険は社会保険と取扱いが異なります。原則として、主たる賃金を受ける1つの事業所のみで被保険者となるため、本業側ですでに雇用保険に加入している場合、副業先では通常、重ねて加入しません。
ただし、65歳以上の方には「雇用保険マルチジョブホルダー制度」があります。複数事業所の労働時間を合算して一定要件を満たす場合、本人の申出により特例的に雇用保険へ加入できる制度です。シニア人材を短時間で採用する場合は確認しておきたいポイントです。

ダブルワーク社員の労災保険はどうなる?

労災保険は、ダブルワーク社員であっても各事業所で適用されます。また、複数の事業所で働く労働者については、休業補償給付などの給付基礎日額を、複数就業先における賃金をもとに算定する仕組みがあります。
そのため、自社で労災事故が発生した場合でも、補償額が必ずしも自社で支払っている賃金だけを基準に決まるわけではありません。

複数業務要因災害にも注意する

脳・心臓疾患や精神障害などでは、1つの事業場だけでは労災認定に必要な業務負荷に達していなくても、複数の事業場における業務上の負荷を総合して評価する「複数業務要因災害」の仕組みがあります。
つまり、ダブルワーク社員の労働時間を把握することは、割増賃金の計算だけでなく、健康管理や安全配慮の観点でも重要です。労働時間管理の具体的な方法は、以下記事で詳しく整理しています。

【関連記事】
ダブルワーク(Wワーク)の労働時間管理はどうする?他社の勤務時間の把握方法と「管理モデル」を解説

採用時に企業が確認しておきたいチェックリスト

✓本業の有無と、本業側で社会保険・雇用保険に加入しているか
✓自社における週所定労働時間・月所定労働日数・雇用期間・賃金など
✓自社単独で健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たすか
✓両社で加入対象になる場合、本人へ二以上事業所勤務届を案内したか
✓65歳以上の場合、雇用保険マルチジョブホルダー制度の対象になり得るか
✓本業を含めた労働時間・健康状態を把握する仕組みがあるか
✓副業・兼業に関する届出・変更時の再申告ルールが就業規則等にあるか

よくある質問|ダブルワーク社員と社会保険

Q1.本業で社会保険に入っていれば、副業先では加入しなくてよいですか?

いいえ。一律に加入不要ではありません。副業先での勤務条件だけを見て加入要件を満たす場合、副業先でも被保険者資格が生じます。

Q2.2社で社会保険に加入すると、保険料を二重に払うのですか?

両社の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、保険料を各社の報酬額に応じて按分します。単純に同じ保険料を2社分支払う仕組みではありません。

Q3.二以上事業所勤務届は会社が提出しますか?

届出は被保険者本人が行います。企業側は、自社で資格取得手続きを行うとともに、本人へ必要な届出を案内しておくことが重要です。

Q4.ダブルワークだと雇用保険も2社で加入しますか?

原則として1つの事業所のみです。ただし65歳以上には、一定要件のもと複数事業所の労働時間を合算するマルチジョブホルダー制度があります。

Q5.副業先の勤務が週20時間未満なら、社会保険は必ず不要ですか?

必ずしも「週20時間未満だけ」で判断するわけではありません。通常の労働者の4分の3基準に該当する場合などもあるため、自社の雇用条件全体で確認してください。

Q6.2026年10月以降は何が変わりますか?

短時間労働者の社会保険適用における月額賃金8.8万円以上の要件は、2026年10月に撤廃予定です。さらに企業規模要件も段階的に縮小される予定のため、加入対象者が広がる可能性があります。

まとめ|ダブルワーク社員の社会保険は「自社単独の加入判定」から

・本業で加入済みでも、自社単独で加入要件を満たせば自社でも社会保険の資格が生じます。
・2社以上で加入する場合は、本人が二以上事業所勤務届を提出します。
・健康保険・厚生年金保険の保険料は、各社の報酬をもとに按分されます。
・雇用保険は原則1社のみですが、65歳以上にはマルチジョブホルダー制度があります。
・労災は複数事業場の賃金や業務負荷が関係する場合があるため、労働時間・健康管理も重要です。

ダブルワーク社員を採用するときは、「本業で何に加入しているか」だけで判断せず、まず自社の雇用条件で社会保険の加入要件を判定することが出発点です。
そのうえで、労働時間通算・賃金設計・社会保険を一連の採用フローとして整備しておくと、採用後の手続漏れや想定外のコストを防ぎやすくなります。

シリーズ①では労働時間通算と割増賃金、シリーズ②ではダブルワーク社員の労働時間管理と管理モデルを解説しています。
Wワーク人材の受入れルールを整備する際は、3記事をあわせて確認してください。
シリーズ① : ダブルワークのパートを採用すると残業代は1時間目から?
シリーズ② : ダブルワークの労働時間管理はどうする?

参考情報
・日本年金機構「二以上の事業所に勤務する場合の被保険者の届出」等
・厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第9 被用者保険の適用拡大」
・厚生労働省「雇用保険マルチジョブホルダー制度」
・厚生労働省「複数事業労働者に係る給付基礎日額の算定について」
本記事は2026年8月時点で確認できる法令・公的情報に基づく一般的な解説です。社会保険の適用要件は制度改正が予定されているため、実際の手続きでは日本年金機構、ハローワーク、労働基準監督署または専門家へ最新情報をご確認ください。