定期健康診断は受診させなくてもいいのか?

2021.04.20

健康診断に関し、会社が健康診断の受診を促しているにも関わらず、「受診しない社員がいて困っている」「健康診断は受診させていなくてもいいのか」というご質問を頂くことがございます。今回はこの回答について記事にまとめてみました。

会社の健康診断は受診させることは「会社の義務」

健康診断(ここでは定期健康診断に限定します)を受診させることは会社の義務であり、要件に該当する労働者に対し、一年に一度、会社の費用負担に於いて行わねばなりません。

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。(労働者安全衛生法第66条第1項)

事業者は、常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内に一回、定期に次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

1 既往症及び業務歴の調査
2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長、体重、視力及び聴力の検査
4 胸部エックス線検査及び喀痰検査(喀痰検査は、医師が必要を認めない時は、省略できる。)
5 血圧の検査
6 貧血検査
7 肝機能検査
8 血中脂質検査
9 血糖検査
10尿検査
11 心電図検査
(労働安全衛生規則 第44条より抜粋)

定期健康診断を受診させていないと罰則の対象になることも

会社は法律を遵守しようとしているのに、一部の労働者の未受診によって、法律違反をと問われるのではないか?罰則を受けるのではないか?というご質問をよく頂きます。

このように労働者の未受診によって、会社は罰則を受けることになるのでしょうか?

定期健康診断の受診、記録保管、結果通知を怠ると「罰則の対象」となる

定期健康診断の受診、記録保管、結果通知は会社の義務となります。
これを怠ると安全衛生法第66条第1項に抵触することになり、罰則の対象となります。また安全配慮を怠ったとして、使用者責任を問われるケースも想定できます。

注意喚起、受診を促しているにも関わらず一向に受診しない場合

会社が定期健康診断を受けさせないのは問題ですが、会社が定期健康診断を法令に則り義務化し、注意喚起、受診を促しているにも関わらず、定期健康診断を拒否する。又は一向に受診しない等、労働者の責めに帰すべき事由についてまで、会社が責任を負うのはあまりに理不尽です。

よって、会社がきちんと対応している限り、労働者の責めに帰すべき事由による未受診については、実務上、罰則等の適用はなされることはありません。

罰則を回避するために会社が取るべきリスクヘッジ

罰則を回避する為には、未受診者について複数回に於ける注意喚起、指導、面談等を実施し、健康診断を受ける必要性を説明するとともに、その指導、注意喚起記録を残しておくことが未受診者に対する、会社が取るべきリスクヘッジとなります。

定期健康診断は非常に重要ですので、会社の指示に従わない場合や、ある程度受診に猶予を持たせたにも関わらず期日までに受診しない場合は、懲戒処分の対象とすることも可能です。
会社のリスク回避だけでなく、労働者自身の健康を保持する為にも、未受診者には、厳正な対応を取ることを周知することも大切です。

未受診者については、記録を取ると同時に、懲戒処分を行う可能性もあることを含めた指導を行うことを定めていれば、実務上は会社が罰則を受けることはないと言えるでしょう。

労働者も定期健康診断の受診義務があることを理解してもらう

前述の「安衛法第66条」は使用者のみならず、労働者についても定期健康診断の受診を義務付けております。

(安衛法第66条第5項)
労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。
ただし、事業者の 指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯 科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

このように会社だけでなく、労働者にも受診義務があることを理解してもらう必要があります。

未受診者は受診拒否を明確に主張している訳ではないかもしれません。
「タイミングが合わなかった」「忘れていた」等の理由によるケースも多いと思います。

会社だけでなく、労働者にとっても定期健康診断の受診は義務であることを法律で定められている非常に重要なものであることを周知した上で、受診を促し続けることが大切です。