社内貸付制度の導入における留意点

2019.08.13

先日、当事務所関与先から、社員向けに新たに社内貸付金制度を導入したいとのご相談がありました。やむを得ない理由により、急にお金が必要となることも往々にしてあると思います。高金利の消費者金融やカードローンを利用させたくない、お金に困って社内外で不正なことを行われては困ると考える社長さんも多いと思います。ここでは社内貸付制度導入についての注意点をご説明致します。

社内貸付金制度導入の注意点

まず社内貸付制度の導入には注意すべきことがあります。
労基法第17条に於いて「使用者は前貸金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」と定められております。

この条文の意味するところは以下のとおりです。

◆「金銭消費貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭消費貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止するのがその趣旨である」

◆「労働者が人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権には含まれない」


つまり、会社が社員やその家族等に一方的にお金を貸付、返済が終わらない限りは退職させないとする行為は強制労働に繋がる可能性が生じかねないので排除するというものです。

但し、禁止されているのは使用者である会社からの一方的な貸付であり、社員が社内規程等に基づき、自らの意思でお金を借りることは禁止してはおりません。

社内貸付金導入にあたり決めなくてはいけないこと

前述第17条の問題を回避し、社内貸付制度を導入するには以下を取り決める必要があります。

(1)福利厚生を目的することを明確にした社内規程を作成する

以下な記載するまず①~⑨の内容を定め、社内規程に定めることが肝要です。

①貸付金制度の定義を決める。

・貸付金とは社内制度上、どのようなものなのか?
(目的、会社の考えを設定する)

②貸付金はどんな時に利用できるのか?
・理由を問わず貸し付けるのか?利用を限定するのか?
・各種証憑の提示を義務付けるのか?
   
③欠勤等により返済が滞った場合の対処法
・返済が滞った場合、猶予措置を設けるのか?
・一括返済を求めるのか?

④返済途中で退職した場合の対処法
・最終給与で控除できない場合はどうするのか?

⑤借入金の上限設定
・勤続年数によって借入金の上限を定める等

⑥支払い回数の上限設定
・何回払いとするのか?
・繰り上げ返済、支払の猶予を盛り込むのか?

⑦対象者の選定
・社員全員に適用するのか、一部社員に限定するのか?

⑧金銭消費貸借契約書
・締結するのか、他の方法を取るのか?

⑨貸付金に金利はどの程度付加するのか?
※低金利はOKですが、無利子は原則NGです。
 無利息で貸付けた場合、贈与税の対象になる可能性があります。

(2)労基法第24条の協定を締結する

返済を毎月の賃金から控除するのであれば、労基法第24条に基づく、労使協定を締結しなければなりません。

毎月の賃金からは保険料、税以外の控除は原則できません。この協定を締結することにより、はじめて貸付金の控除を賃金から行うことができます。

(3)賃金から貸付金を控除する依頼書を社員からもらっておく

労基法第24条の協定を締結することにより、賃金から貸付金の控除を行うことが可能になりますが、念のため借入者個人からも貸付金控除に関する依頼書又は同意書を取り交わしておいた方が良いと思います。


社員の万が一の備えの為、貸付金を導入するのは、安心材料となり、福利厚生の一つとして効果的な制度だと思います。但し、きちんとした制度設計を行わないと、せっかくの制度が法違反になることに注意が必要です。

尚、要望があるとはいえ、無理な金額を貸し付けると返済が滞り、労使双方の関係性が悪くなる可能性もございます。
社員の給与額を会社は把握しておりますので、返済に無理のない範囲で金額を定め、利用することが必要です。